Projects

EUの崩壊、西欧諸国の移民・難民問題、アメリカ市民の分裂に象徴されるように、世界各地で「分断」をめぐる課題が巻き起こり、そして分断は新たな「コンフリクト」を生み出しています。さらにこのことは、具体的な社会問題となって我々の目の前に立ちはだかります。所得格差、社会格差、貧困、虐待、暴力、マイノリティ排除、障害者差別、人身売買、宗教・民族対立、途上国女子教育、医療格差など、日本を含む世界中に様々な問題が山積しています。その背景には、自然災害、人的災害、経済危機、感染症の蔓延など、社会的リスクとされるさまざまな外的要因の影響も否定できず、これらの破壊要因が新たな創造への起点となることもあるのです。

これまで世界中の国々において、種々の社会問題に対し、それぞれの問題を別の性質の問題と捉え、解決方法を模索してきました。その結果、多くの社会問題は解決するどころか深刻の度合いを深めています。なぜこれらの社会問題は、時代が進み文明が発達しても消滅することなく発生し続けるのでしょうか。この問いへの答えを見出すためには、社会問題の根底には何があるのか、そこに目を向ける必要があります。

私はあらゆる社会問題の根源は、「分断」とそれを象徴する「コンフリクト」だと考えています。コンフリクトとは、相反する意見、態度、要求などが存在することにより緊張状態が生じることであり、対立、軋轢、摩擦、葛藤、争いなどと表現されます。そのため、これらの社会問題を解決に導き、真に包摂社会を構築するためには、まずコンフリクトを根源から解消することに注力しなければならないのだと思います。

日本の地域社会に目を向けると、従来の法制度のもとでは対応困難な諸課題やこれまで想定されることのなかった新たな課題が生じています。現在の人口減少、少子高齢社会のもとで、SDG’sの目標である“No one will be left behind ”(誰一人取り残さない)のスローガンを満たすためには、様々な分断を乗り越えなければなりません。「分断」、そしてそこから生じる具体的課題としての「コンフリクト」に対抗しうるものは、「社会包摂」を超える「人類の安全保障」への志向です。

今、社会に必要なものは、社会包摂の概念を先鋭化し、そのものが先述したSDG’sのスローガンを満たす機能を兼ね備え、それを十分にマネジメントできるしくみなのです。

〈Recearch Projects〉

a.コンフリクトの合意形成手法に関する研究

 それまではあまり親しくなかった、むしろ好意的な感情を抱いていなかった相手との間で喧嘩やもめごとが起こったときに、喧嘩やもめごとが起こる前よりもその相手と親しくなった、距離が近くなったという経験をしたことはありませんか?

日本人は比較的、他者とのもめごとを避け「穏便な」関係性を好む傾向にあると考えられています。もちろん、もめごとやトラブルのない生活をストレスなく送ることができるのであれば、それに越したことはありません。ただ、実際には、人は社会のなかで生きる以上、他者や自分を取り巻く環境にストレスを感じたり、不満を抱いたりするのは当然のことです。そのため、日々の生活を送るなかで、大小の差はあっても、他者や環境との間に対立や葛藤、摩擦などが生じるのは珍しいことではありません。

そもそも、他者と対立したり葛藤を覚えたり、摩擦が生じることは悪いことなのでしょうか。もし、他者との争いがマイナスの要素しかもちえないものであれば、なぜ「喧嘩やもめごとを経てよりきずなが深まる」という現象が生じるのでしょうか。

コンフリクトは原則的には二者間以上の間で生じ、両者の目標とする方向性が異なっている状況において、両者がそれぞれの目標を追求しようとするときに生じるものです。ただ、コンフリクトは個人内の対立状態(葛藤状態)として起こる場合もあります。たとえば、「ダイエットをしているがケーキを食べたい」といった個人内の葛藤レベルのものから、対人間で生じるものや集団間で生じるもの(対立、紛争)もあり、コンフリクトはミクロからマクロまでさまざまなレベルで発生するものです。

 本研究では、施設コンフリクトはどのような背景により生じるのか、どうすれば施設コンフリクトを合意形成に導くことができるのかについて、提示します。

b.地域相互支援型拠点活動を基盤としたつながりの構築

 人口減少社会及び超高齢社会を想定した「社会福祉専門職と地域住民との連携による総合相談体制」を構築するためのモデルづくりに着手しています。このモデルは、地域住民の総力を結集した「支え合い」(地域相互支援型)を基調としながら、日常生活圏域における医療及び福祉の専門職と地域住民とが協働する総合相談体制と、それを支える地方自治体の役割を明確にした生活困窮者(社会的孤立を含む)や精神障害者、がん罹患患者等への支援のあり方を提示するものです。

モデル実践地域:北海道T町、兵庫県K市U地区、大阪市A地区 など

  2019年12月27日毎日新聞朝刊

c.つながりによる防災力の強化

 「自助・共助」の重要性は、特に東日本大震災以降国民にも認識されるようになりました。内閣府が実施した世論調査結果によると、「自助・共助・公助」のうち重点を置くべき防災対策としては、平成14年調査時には「公助」に重点を置くべきと考えている方の割合は24.9%でしたが、平成29年調査時では「公助」は6.2%に減少する一方、「自助」は平成14年の18.6%から平成29年の39.8%に、「共助」は平成14年の14.0%から平成29年の24.5%にそれぞれ増加しており、「公助」よりも「自助」「共助」に重点を置くべきとする方の割合が高まっています(図表1-1-2)

多くの死者・行方不明者を出した東日本大震災では、町長をはじめ町の多くの幹部や職員が津波によって死亡するなど、本来は被災者を支援する役割を担う行政自身も大きな被害を受けました。行政が被災してしまい、被災者を支援することができない場合も想定しておかなければなりません。機関としての行政や職員自身も、地域住民と同じ被災者なのです。

平時からの他者への「配慮」は、災害発生時には災害弱者への配慮につながります。

日常のつながりによる「生活のしづらさ」への「気づき」と「支え合い」は、被災者への気づきと支え合いにつながります。

避難時の注意点を地域内で共有しておくことは、地域住民の命を守ることにつながります。

地域内や自治会内で防災について話す機会をもつことは、災害への地域全体の意識を高めます。

救助用品を備える(定期的に見直す)ことは、自助そして共助の力になります。

社会福祉の観点から防災を考えることが、平時の社会においてもあらゆる人が暮らしやすいまちづくりにつながります。